

営業なんて知らない。未経験 22歳の挑戦
22歳のとき、まったくの未経験で営業職に就いた。職種は「SP(セールスプロモーション)」。主にスーパーを巡回し、売り場の担当者とコミュニケーションを取りながら、自社商品の陳列や販売促進を図るという仕事だった。
当時の自分は、元・職人あがり。営業なんて、完全に未知の世界だった。人と話すのは苦手だったが、「人と話すのが好きなんです!」と見栄を張って入社。
生きるためには、真面目なフリをしてでも食らいつくしかなかった。
面接では自信満々で語ったものの、内心は不安でいっぱいだった。営業って何をするんだろう?お客さんとはどんな話をすればいいんだろう?そんな基本的なことすら分からない状態で、この世界に飛び込んだのだ。

最初からわけわからなかったね。
営業ってなんか大変そうね。

一応、引き継ぎで1日だけ先輩に同行したが、そのあとは単独で現場へ。地図を片手に、車で片っ端から巡回。スーパー、ドラッグストア、量販店……ありとあらゆる店舗を回った。

未経験者がいきなり200店舗を回る日々と理不尽な現実
教育や研修はほぼ皆無。渡されたのは膨大な数の店舗リスト。「はい、今日から行ってきて」──
え?どこ行くの?何するの?右も左もわからぬまま、見よう見まねで店舗巡りが始まった。
最初の一週間は本当に地獄だった。どの店がどこにあるのかも把握できず、毎日迷子になりながらの営業活動。カーナビもない時代、道路地図とメモだけが頼りだった。店舗の担当者に何を話せばいいのか分からず、挨拶だけして逃げるように帰ることも多かった。
約200店舗。対する競合は30店舗を大人数で集中管理。訪問頻度は1日に3回以上。朝・昼・夕と現れては、売り場を整えていく。そりゃ、いい場所を押さえるのはそっちだ。
「●●社さんは、毎日ちゃんと来てくれるから」そんな言葉に歯ぎしりしながら、1人で奮闘する毎日だった。

未経験転職車が現場で学んだ厳しい現実
店舗担当者の中には、明らかに面倒くさそうな態度を取る人もいた。忙しい時間帯に行ってしまい、「今、忙しいから!」と怒鳴られることもしばしば。そんな時は、いつ行けばいいのか、どうやって関係を築けばいいのか、手探りで試行錯誤するしかなかった。
特に印象的だったのは、ある大型スーパーの店長さんとの出会いだった。最初は冷たい対応だったが、毎週同じ曜日の同じ時間に顔を出し続けることで、少しずつ話を聞いてもらえるようになった。「君、毎週来るね。偉いじゃない」と言われた時の嬉しさは今でも覚えている。
一方で、競合他社の営業の巧みさには圧倒された。彼らは店舗の事情を熟知し、担当者との関係も深い。商品知識も豊富で、売り場作りのセンスも抜群だった。自分の未熟さを痛感する日々が続いた。

人は生き物。数、回数、頻度。諦めない。それしかなかったな。
なんか難しそうだし、やっても無駄な気がします。

未経験でも頑張って通い続けて勝ち取った、無言の信頼
ある日、担当者と仲良しのライバル営業が牛耳る店舗があった。挨拶しても無視。会話もない。やっても無駄。それでも毎月、通い続けた。
その店舗では、本当に何をやっても響かなかった。商品の提案をしても「間に合ってます」の一点張り。陳列を直そうとしても「触らないで」と言われる始末。正直、何度も諦めようと思った。でも、担当エリアから外すわけにもいかず、義務的に月1回は顔を出していた。
半年が過ぎた頃、少しずつ変化が見えてきた。挨拶に対して小さくうなずいてくれるようになった。それだけでも大きな進歩だった。陳列をチェックしている時も、以前ほど監視されている感じがしなくなった。
1年後──売り場が全部、俺の会社の商品に変わっていた。「例のマネージャーがやってくれたらしいよ」まさかの大逆転だった。
後で分かったことだが、店舗の担当者は上司に「あの営業、しつこいけど真面目だから、少し話を聞いてやってもいいんじゃないか」と言ってくれていたらしい。継続は力なり、という言葉を身をもって体験した瞬間だった。

継続。好き嫌いではなく仕事として取り組む。やったかやらなかったか。
そうなんですね。嫌いな担当者だと行かなくなりそうです。

未経験が失敗から学んだ、小さな店舗で「気づく力」
中には、小型店舗ながら大手スーパー並みの売上を出す店もあった。しかも、他店舗では不人気な銘柄が爆売れしていた。
理由は──ある"たったひとつの仕掛け"に気づいた。
これは現場で体を動かしながら試していった結果、ふとした瞬間に見えたもの。
なんでこの店だけ、売れるのか?
その店舗は住宅街の中にある小さなスーパーだった。立地も特別良いわけではなく、駐車場も狭い。でも、いつ行ってもお客さんで賑わっていた。最初は不思議でしょうがなかった。
ある日、いつものように陳列をチェックしていると、店長さんが話しかけてきた。「この商品、よく売れるんだよね。お客さんに喜ばれてるよ」その時、ふと気づいた。商品の並べ方が他の店舗と微妙に違っていたのだ。
ある仕掛けの後、売り場をよーく観察していたら、あることに気がついた。
その店舗では、メーカー推奨の陳列方法ではなく、お客さんの導線と購買心理を考えた独自の配置をしていたわけでもなく、あることが理由だった。ここではナイショ。
この発見は、どのメーカーの営業も見つけられなかった。自分が担当外れるまで誰も気が付かなかった。

経験不足が招いた焦りと反省──やらかした現場の記憶
大型スーパーでのミスもあった。品出し中にうっかりやりっぱなしで帰ってしまった。猛ダッシュで戻り、全商品の整理をして謝罪。他社の品出しまでやって、なんとか許してもらった。
そのミスは本当に冷や汗ものだった。夕方の忙しい時間帯に商品の陳列替えをしていたのだが、緊急の電話が入り、慌てて作業を中断。そのまま次の店舗に向かってしまった。
謝罪だけでは済まないと思い、その日は他社の商品も含めて売り場全体の整理整頓を手伝った。2時間ほど作業をして、ようやく許してもらえた。それ以降、作業の途中で中断する時は、必ず一区切りつけてから移動するようになった。
この失敗から学んだのは、責任の重さと、信頼関係の脆さだった。一度失った信頼を取り戻すのは、築くことの何倍も大変だということを痛感した。
あの時の毎朝の挨拶が、心を救ってくれた

営業の途中、毎朝通る場所にいたカレー屋さん。買ったことはなかったのに、「いってらっしゃいませ!」と毎朝笑顔で挨拶してくれる。ある日、思わずカレーを買った。
そのカレー屋さんは、移動販売車でオフィス街の角に毎朝現れる。自分の営業ルートの途中にあり、いつも朝の8時頃に通りかかっていた。最初は何となく目に入る程度だったが、いつの間にか「おはようございます!今日も頑張って!」と声をかけてくれるようになった。
営業で嫌なことがあった日も、その明るい挨拶に救われていた。特に何も買わない自分にも、変わらず笑顔で接してくれる。その温かさに、いつしか心が癒されていた。
食べてみたら感動。ピーマンの肉詰めカレーが最高だった。気づけば週5日のうち4日は食べていた。
初めて買ったカレーは、シンプルなチキンカレーだった。でも、その味に驚いた。市販のルーとは全く違う、複雑で深い味わい。翌日、今度はピーマンの肉詰めカレーを注文してみた。これが絶品だった。ピーマンの苦味とカレーのスパイスが絶妙にマッチして、今まで食べたことのない美味しさだった。
気がつくと、そのカレー屋さんが自分の営業の原動力になっていた。朝の挨拶で元気をもらい、昼食で英気を養う。そんなルーティンが営業の厳しさを和らげてくれていた。

いらっしゃいませ〜
あ、カレー屋さんかあ・・


あ、いってらっしゃいませ〜
あれ、まだここ買ったことないのに、挨拶してくれる・・
今度買ってみよう。
そう言えば、誰もいないときから近くを掃除していたな。

移動販売の闇 行列と嫌がらせ──移動販売の現実
ある日、そのカレー屋さんに聞いた。「最近、他のお弁当屋さんが増えてきましたね」すると、「嫌がらせを受けてます。トイレの時に暴力も……」と。
それまで知らなかったが、移動販売の世界にも縄張り争いがあった。そのカレー屋さんの人気が高まるにつれ、既存の弁当業者からの嫌がらせが始まったらしい。販売場所を巡ってのトラブルは日常茶飯事で、時には身体的な危険もあると聞いて驚いた。
「でも、負けませんよ。お客さんが待ってくれてますから」そう言って笑う店主の強さに感動した。自分の営業の悩みなんて、たいしたことないと思えてきた。
それでも彼らは笑っていた。「でも、お客様はちゃんと見てくれてるんです」その言葉に胸が熱くなった。彼らの存在が、自分の営業人生を支えてくれた。
実際、そのカレー屋さんには固定ファンがついていた。毎日同じ時間に現れる常連さんたち。雨の日でも、暑い日でも、変わらず買いに来る人たち。その光景を見ていると、本当の商売とは何かを教えられる気がした。
商品の質、接客の温かさ、そして継続する力。そのすべてが揃った時、お客さんは必ずついてきてくれる。これは営業の世界でも同じことだと気づいた。

買いに来ました。いつも声かけてくれるので気になりまして。
ありがとうございます^^ では日替わりで!はい日替わりお願いします!


ありがとうございます。
いってらっしゃいませ!^^

こんなにお弁当を買うのに楽しみにできて、きもちよく買えることなんてほぼない。
今いる移動販売はみんな顰めっ面。なんかめんどくさそう。でもやらないとならないって顔している。
だから、このカレー屋さんは世界一のカレー屋さん。後に、週5のうち、週に4から5日買ってた。
そして、事件が起きた
月1回の会議。その後の懇親会。軽く飲んだつもりだったが、帰り道に酒気帯び運転で捕まった。免許取り消し。会社に報告。即日解雇。人生が一瞬で崩れた瞬間だった。
その日は、月次の売上報告で好成績を収めた直後だった。上司からも「最近、調子いいじゃないか」と褒められ、同僚との飲み会も盛り上がった。調子に乗って、いつもより多く飲んでしまった。
「大丈夫だろう」そんな甘い考えが、すべてを台無しにした。検問にかかった時の絶望感は今でも忘れられない。警察官の「お酒飲まれてますね」という言葉で、頭が真っ白になった。
会社への報告は、人生で最も辛い電話だった。上司の失望の声、同僚たちの驚きの顔。それまで築いてきたものが、一瞬で崩れ去った。
「なんで俺だけ……」そう思った。もっと酔ってた先輩はスルーされたのに。でも、それが現実だった。
捕まったのが自分だった、それだけのことだった。運が悪かった、タイミングが悪かった、いろいろな言い訳を考えたが、結局は自分の責任だった。営業車を運転する資格を失った営業マンに、存在価値はなかった。
解雇通知を受け取った時、担当していた200店舗のことが頭をよぎった。あの店舗の担当者たちには、どう説明されるのだろう。築いてきた信頼関係は、どうなってしまうのだろう。

やっちまった。でも他にも飲んでいるやついた。ではなくて自分がやらない。そう行動できなかったんだ。
付き合いってありますもんね。仕方ないですよ。


でもしっかり反省して復活することにした。
それでも残った未経験転職者 "背中を押す記憶"
こうして、営業人生は終わった。けれど、あの経験は今も生きている。「行動で信頼は勝ち取れる」ことを、自分の身体で知った。
人生は、誰と出会い、何を体験するか。あの営業の日々と、あのカレー屋さんの笑顔は、今でも自分の背中を押してくれる。
営業を辞めてから数年経った今でも、その経験は様々な場面で活かされている。人との関係作りの大切さ、継続することの力、そして何より、相手の立場に立って考えることの重要性。これらは営業だけでなく、どんな仕事でも通用する普遍的なスキルだと思う。
あの時の挫折は痛かったが、学んだことは計り知れない。22歳の未経験者が200店舗を任された環境は決して恵まれていたわけではないが、だからこそ得られた経験もあった。現場で泥臭く学んだことは、どんな研修でも教えてくれない貴重な財産になった。
今振り返ると、あの営業時代は自分を大きく成長させてくれた期間だった。人との接し方、仕事への取り組み方、そして困難にどう立ち向かうか。すべてがその後の人生の糧になっている。
カレー屋さんとの出会いも、人生における大切な教訓を与えてくれた。どんな仕事でも、そこには人がいて、ストーリーがある。表面的な関係ではなく、心と心で繋がることの大切さを教えてもらった。
失敗で終わった営業人生だったが、後悔はない。あの経験があったからこそ、今の自分がある。挫折も含めて、すべてが必要な経験だったのだと思う。

全ては経験。そのときは大変だし、何で俺がって思う。でもそれは今になれば教訓。そうしないと、神様がくれた試練がまたくるよ。
今私も色々あって、辛かったですが、前に進みます。

私も、反面教師として、学び、転職に活かしていきます。

